作品データ
TVアニメ『花咲くいろは』(2011年)
http://www.hanasakuiroha.jp/
第1話 『十六歳、春、まだつぼみ』
監督: 安藤真裕
脚本: 岡田麿里
絵コンテ: 安藤真裕
演出: 安藤真裕
作画監督: 関口可奈味
概要
東京の女子高生・緒花は突然、祖母の経営する金沢の老舗旅館で住み込みの仲居として働くことになる。という話。
同じく住み込みで板前修業中の民子と相部屋になるが、彼女の植えた食用のノビルを雑草と間違えて抜く、厨房の指導に口出しするなど善意の行動が裏目に出た形で民子にすっかり嫌われる。
それでも短い睡眠時間で修行に精を出す民子に、緒花は少しでも疲れが取れるようにと気を利かせて陽の当たる窓に布団を干すが、下の階のお客に布団を落としてしまいまたも裏目。事情を聞いた女将は民子を呼び出し、彼女の身の回りの不始末が原因だとしてビンタ。
悪いのは自分なのに理不尽だと食ってかかる緒花に女将は、お客にとっては理不尽どころではないと諭す。反省する緒花だが、「あたしも叩いて下さい!」とリクエスト。自分のせいで頑張ってる人が叩かれるなんて嫌だという言い分に、女将は無言でビンタ三発をくれるのでした。
評価
衝撃度 (Impact): 80
民子を目の前に呼んだ女将は、無言で煙管の灰を落として、静かに置き、目線を切ったままバックハンドでビンタ。かなりの高等技術である。その瞬間まで予測不可能という意味では衝撃度は高い。
今のご時世ほとんど見られなくなった(?)、体罰としてのビンタ。厨房での言葉がすぎる説教といい、この旅館では昔ながらの厳しい指導方針が残っていて、東京育ちの緒花と文化衝突を起こすわけです。とはいえ本編で女将のビンタが飛ぶのはここだけ。民子に隙があったのは事実として、むしろ緒花への一拶の意味と捉えるべきかも。ただ仲居頭の巴のリアクションはそれほど驚いているようではないし、後に若旦那の縁が崇子に手を上げようとした時も「手が早いのは血筋か」と述懐しているので、女将ビンタは必ずしも珍しくはないのかもしれない。閑話休題。
さらに緒花が自らビンタを要求するという意外な展開に、また無言で三発というのも凄い。お婆ちゃんのビンタという意味でもレアでしょう。ちなみに女将は68歳。
表現力 (Expression): 80
煙管を置く所作からワンカットで次の瞬間手が飛ぶ様はまさに静から動。目線を向けないままの高等技術で、上体を吹っ飛ばし頬に跡が残る威力も十分。
緒花へのビンタは二人とも立った状態で、緒花の言葉に一瞬、目を伏せて考えるそぶりを見せてから、おそらく振り向きざまに、間を取って三発。女将の袖が翻るのを、あえて激しくブレるカメラワークで一迅の風のような効果をつけ、その瞬間は見せずに緒花のよろめく足、揺れる後ろ髪のカットでつないで音で表現。こちらは両頬が腫れ上がるほどのダメージ。ちなみに鼻血を出しているのは「興奮すると鼻血が出やすい体質」という伏線が入っており、精神的な原因と考えられる。あくまで打撃は綺麗に頬に入った、と。
二度にわたる衝撃の瞬間をうまく描き分け、画も工夫された良シーン。
感情度 (Emotion): 55
女将はあくまで感情を交えず、民子に対する業務上の指導の一環としてビンタ。その後の緒花へのビンタは、本人の希望によるものであり、三発という数も含めて何らかの思いを込めたとも想像できます。
リアクション (Reaction): 75
民子の、正座から脚を横に崩し頬を押さえて項垂れる様子はまさに「耐える女」の図で、「すみません」とひたすら反省の意。
緒花は自分で言い出した手前もあり、目を潤ませながらも「ありがとうございましたぁっ!」と意地を見せる。
これも好対照です。
破局度 (Catastrophe): 50
民子は、女将の処置そのものには完全に納得しておりそこは問題なし。緒花は、女将の言葉に感じるところはあったものの、やはり意見の違いはある、という両者の関係がここで決まる。緒花の要求通りビンタした女将も、意外とガッツのある孫、と評価を改めた面もあるのではないか。この時点ではわからないが、母として娘として二人の間に入る皐月の存在も併せて考えると趣深い。
むしろこのあと民子と緒花の間がますますこじれるのだが、それは別問題であり対象外。
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