『インフィニット・ストラトス』 第11話 凰鈴音

『インフィニット・ストラトス』 第11話 凰鈴音 『インフィニット・ストラトス』 第11話 凰鈴音

作品データ

TVアニメ『インフィニット・ストラトス』(2011年)
http://www.tbs.co.jp/anime/is/
第11話『ゲット・レディ』
原作: 弓弦イズル
監督: 菊地康仁
脚本: 冨岡淳広
絵コンテ: 菊地康仁
演出: 米田和博
作画監督: 皆川一徳

概要

 作品としては、特殊な機体を扱う空軍士官学校ものといったところ。
 受領したばかりの自分専用機で初めて実戦に出撃した箒は、冷静さを欠いて判断を誤り作戦は失敗、彼女を庇った主人公の一夏は重傷を負って意識不明になる。
 夕暮れの浜辺に一人たたずみ、一夏との想い出を回想する箒の前に、同級のライバルの一人、鈴音が現れ、彼女を挑発するが、まだ弱音を吐く箒の胸ぐらを掴んで頬を張り、再起を促すのだった。

評価

衝撃度 (Impact): 60

 実のところ、初めて観た時に問題のシーンが始まった時点で直感的に「ビンタがくるぞ」という予感がした。ある種の黄金パターンに入っているためだろう。
 このエピソードでスポットが当たるのはメインヒロインの箒であり、一夏が意識を失った後は完全に彼女の視点で展開する。目を覚まさない一夏の枕元につきっきりで正座していた箒は、休むようにとの教官の指示で病室を離れ、何かを振り切るように浜辺を全力疾走。長い回想に入る。
 出撃前は、彼女が初の自分専用機に浮かれている様子を周りが危惧する描写がある。実際に作戦が失敗した要因は、犯罪者である密漁船を流れ弾から護ろうとした一夏との判断の食い違い。回想シーンは、幼馴染みである一夏と下の名前で呼び合うようになったきっかけの出来事。と、一つ一つの要素はうまく噛み合っていない感もある。
 ともかく自分のミスで一夏に重傷を負わせた、そのことを悔やむ箒の前に現れた鈴音は、IS乗りとしてのライバルであると同時に一夏をめぐる恋敵でもある。だが、ここでは「夕陽に染まる浜辺」という強烈なシチュエーションからして、恋敵ではなく同じIS乗りとして発破をかけに来たのだなと判断できるため、そのいわばスポ根の文脈でビンタが予想できたということだと思う。
 余談だが夕暮れの浜辺というシチュエーションは、この回の冒頭、同じ場所から出撃するシーンで午前の日差しが射しているのと対照にもなっている。

表現力 (Expression): 70

 右手で箒の胸ぐらを掴み、左手を振り上げるところまでを正面から。箒の言葉に感情が激する表情を捉えているのはポイントが高い。しかしショットが切り替わった瞬間もうヒットしていて、そこまでのスイングが省略された形になっているのは残念。またヒットの後のフォロースルーも、肩が下がり肘も曲がって力が抜けているように見える。腕を伸ばして振り切ってほしかった。全体としても、襟を掴んで固定している右腕と交差させるように振っているのでやや窮屈そうな印象を受ける。

感情度 (Emotion): 75

 上記の通り、鈴音と箒はIS乗りとして同期のライバルでもあり、一夏をめぐっては恋敵でもある関係。
 ここではまず「あのさぁ、一夏がこうなったのって、あんたのせいなんでしょ!」と、責める調子ではないがあえて容赦なく事実を指摘する。反応がないと見て今度は嘲る調子で「で、“落ち込んでます”ってポーズ?」と、不意に激して「ざけんじゃないわよぉ!」と胸ぐらを掴んで向き直らせる。今戦わなくてどうする、という言葉にも、死んだ目で「もうISは使わない」と漏らす箒に、遂に手を上げる。
 鈴音の一連の言動は全て箒を再奮起させるためで、一夏に重傷を負わせたことについて「あんたのせいで一夏は!」というように責める気持ちは一切見せていない。それは態度として見事ではあるが、少しだけその感情が滲む演出があってもよかった気はする。
 箒の反応を見極めようと睨む目が少し潤んでいるように見え、また箒の泣き言を聞いて激昂する瞬間の感情の動き、この二点の表現は巧い。

リアクション (Reaction): 75

 胸ぐらを掴まれた体勢から突き放すように叩かれ、倒れる箒。這いつくばった彼女をなおも罵倒する鈴音に対し、拳を握り、「――戦えるなら、私だって戦う!」と遂に顔を上げて叫ぶ。
 ここも完全に青春スポ根もののコードで、非常に美しい流れ。

破局度 (Catastrophe): 0

 「やっとやる気になった」箒に鈴音は笑顔を見せ、見守っていたチームの面々も含め「みんな気持ちは一つ」に。わだかまりがなくなり絆は深まった。くどいようだが、青春スポ根である。