『謎の彼女X』 第8話 卜部美琴

『謎の彼女X』 第8話 卜部美琴 『謎の彼女X』 第8話 卜部美琴 『謎の彼女X』 第8話 卜部美琴

作品データ

TVアニメ『謎の彼女X』(2012年)
http://www.starchild.co.jp/special/nazokano_x/
第8話『謎の感覚』
原作: 植芝理一(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
監督: 渡辺歩
脚本: 赤尾でこ
絵コンテ: 渡辺歩
演出: 所俊克
作画監督: 磯野智

概要

 高校一年生の主人公、椿くんは、放課後の教室で寝ていたクラスメートの女の子、卜部の涎を舐めたのが縁(?)で、彼女とつき合うことになる。
 少年にとって女の子とは謎多き存在であるというのがテーマで、ヒロインの卜部は口数少なく無表情、というか髪で顔が隠れて表情が見えず、それでいて身のこなしや特技のハサミ捌きなど異常に高い身体能力を持ち、さらに涎に関する特異体質(?)と、まさに謎だらけの存在。
 相手の涎を舐めるとその時の感情、頭の中でイメージした映像などが涎を通じて伝わってしまい、場合によっては身体の同じ場所に傷ができるなど体調に影響があったりする、それが椿と卜部、二人の間の「絆」です。そのため二人は毎日一緒に下校して、別れる前に卜部が指につけた涎を椿くんが舐めるのが「日課」になっている。

 夢の中で卜部の胸を触った椿くんは起きてもその手の感触が頭から離れず、煩悩を振り払うために外出。知らずに通りかかった卜部の自宅前でバッタリ逢い、部屋に上がることに。私服の黒い縦セーターで胸が強調された卜部を見た椿くんは挙動不審になり問い詰められて「胸を触った夢を見た」と白状してしまう(笑。「その感触ってどんなだったの?」と訊かれて「柔らかくって、弾力性があって……」と説明する椿くん。どんなプレイだよ。卜部は自分の胸を触りながら涎を舐めさせて感触を疑似体験(?)させる。思わず涙を流す椿くんに、「何も泣かなくてもいいと思う……」 珍しく呆れたような台詞を、例によって淡々と口にするレアなシーンです。
 しかし涙に思うところあったのか、卜部は「もしあなたが望むなら、直接自分の手で触ってもいいわ」と爆弾発言。「でもこういうことはお互いの気持ちが大切っていうか……!」などと大パニックする椿に、曖昧なことを嫌う卜部は「三つ数える間に触らなかったら、今の話はナシにするわ! 一、二、……」「ごめん卜部!」 切羽詰まった椿くんは勢いで卜部の胸にタッチ。さらに思いあまって卜部を押し倒して耳を舐めるという大暴走っぷり。さすがの卜部も動揺を隠せず、ハサミを拾って反撃しようとするも手が届かないという、全編屈指の緊迫シーンです。
 しかし卜部の流す涙を見て我に返って愕然とした椿くんは平謝り。「別に怒ってないわ」という言葉も耳に入らない様子で放心状態のまま帰るのでした。

 翌日学校で気まずい椿くんは、帰りにいつもの日課をこなそうとする卜部を遮り、「今の俺に卜部の涎を舐める資格はないよ……だから、日課をする前に、俺を殴れ!」とリクエスト。

評価

衝撃度 (Impact): 60

 「別に怒ってないわ」と繰り返す卜部だが、「お前が怒ってるかどうかは問題じゃないんだ、俺が彼氏として自分の彼女を泣かせたことが問題なんだ!」という走れメロス的な説明。卜部を押し倒したこと自体もそうですがこの回の椿くんはむしろ意外に男らしいところを見せます。
 卜部は「わたしのビンタ、かなり痛いよ?」と警告。彼女の性格と身体能力からしてこれは言葉通りの意味だし、力を抜くつもりもないという宣言です。また、気に入らないことは「ダメよ」と取りつく島もない彼女が言われた通りにするのは、椿くんの言い分にそれなりに納得するものがあったのでしょう。
 そんなわけで、その場で右手をゆっくりと上げてそのままフルスイングする卜部でした。

表現力 (Expression): 90

 あえて卜部に椿が被る構図で右手を上げる→肘をしならせてスイングするところを正面バストショット→ヒットする瞬間は卜部の後ろから→のけ反る椿くんのアップ→再び卜部バストショット、とオーソドックスなカット割りで、かつ全ての段階を省略せずたっぷりと描いています。ヒットのタイミングで卜部の息が漏れる声、そして威力を感じさせる打撃音も文句なし。
 強いていえば、本当に全力なら一歩踏み込んで腰の回転も利かせて打つところを、ほぼ肩から先の力だけで叩いているように見えるのが卜部なりの加減というところでしょうか。

感情度 (Emotion): 10

 本人の言う通り、卜部に怒りはない。むしろ感情を見せていないのがミソですね。

リアクション (Reaction): 75

 「あなたが昨日のことで痛みを受けるなら、私も同じ痛みを受けないといけないわ」と、椿の涎を舐める卜部。椿と同様に腫れ上がった頬を押さえる。自分のビンタのダメージを自分で受けてリアクションという、この作品ならではのシーンです。
 いつも椿に対しては切り口上、断定口調の卜部が独り言のように「我ながら、自分のビンタは痛いな……」と呟くのもポイントが高い。

破局度 (Catastrophe): 30

 丘と卜部の会話にあるように、「恋愛すると自分の感覚が変わる」というのがこのエピソードのテーマですが、それを生理的な反応として描くのがこの作品。耳を触ると涙が出る、というのが、椿くんが変えた卜部の「新しい感覚」です。
 胸を触っていいと言った自分にも責任はあると言う卜部に、椿くんは今涎を舐めるのはやめてほしかった、と、卜部の頬に手を当てて、「俺の好きな卜部の顔にアザができるのは絶対に嫌だな……」
 その言葉に照れた卜部は俯いて顔を隠したまま日課を済ませて走り去るのでした。貴重なデレ。